東日本大震災から8年が経過しました。現地では復興が進みつつありますが、時間の経過とともに人々の被災地への関心は年々下がっているように感じます。
そのようなことを思っていた昨年末に「おのくん転売問題(※1)」がTVなどで一気に話題になりました。被災された方たちが作るぬいぐるみが、フリマアプリなどで高値で転売されていたのです。
私は2010年から毎年、宮城県の大学へ授業をしに行っており、発災後は仕事とボランティアの両面から復興に携わってきました。また、おのくんとの出会いは2012年から現在まで続いており、自宅には40体近いおのくんを持つ、おのくんファンでもあります。
そこで今日は、そんな転売などというヤボな発想ではなく、バイコット流「おのくんの本当の楽しみ方」を紹介していきたいと思います。
仮設住宅から生まれた“おのくん”
「おのくん」は靴下で作られたソックスモンキーと呼ばれるぬいぐるみで、東日本大震災で大きな被害を受けた宮城県東松島市の旧小野駅前応急仮設住宅に住んでいたお母さんたちによってつくられました。「おのくん」というネーミングもそこから付けられています。
仮設住宅内に作られた集会場は、被災された方たちが休憩したり、外部からの支援者と交流する場として存在し、そうした中で仮設住宅に住む女性たちによるお茶会やモノづくりなども行われるようになりました。
私は岩手・宮城・福島などの被災地を訪問し、こうしたモノづくりの実情を調査してきましたが、モノづくりをはじめた理由の多くが「被災された方が楽しめる活動として」や「被災された方々が交流するための企画として」であることを知りました(※2)。
ここに一般的なビジネスとは違う仮設住宅でのモノづくりの役割があります。
お客さまとは違う“里親”というつながり
2017年に小野駅前応急仮設住宅が解体されてからは、陸前小野駅前に「空の駅」という建物を新設。現在は空の駅やイベント、通信販売などで販売されています。
おのくんの価格は1体1,000縁(円)。「円」ではなく「縁」としているのには理由があり、購入した人とお母さんたち、そして東松島が繋がりを持ちたいとの想いが込められています。
そして、このような想いからは購入する人をお客様ではなく「里親」と呼び、様々な里親のもとへおのくんが引き取られるといった表現を使っています。現在、里親は日本全国にいて、さらにアメリカやヨーロッパ、東南アジアといった海外にも拡がっています。
おのくんは口コミから高い人気となり、通信販売では約半年待ちの状況です。しかし現地へ行くとたいてい里親になることができ、そこには東松島へ来てくれてありがとうというお母さんたちの気持ちがあります。
転売の影響
おのくんをつくるお母さんたちの想いは、東松島へ来て欲しい、そしてつながりを持ってほしいというものです。こうした想いがあるところが一般的な商品とは違う点で、この想いに共感した人との間に絆を作っています。
しかし、購入希望者が増えてもすべてが手作業のために大量につくることはできません。そうした状況から、いつの間にかおのくんは高値で転売されるようになりました。しかし、転売で購入したものではお母さんたちとの間に絆やつながりが生まれません。はじめから転売目的の購入者も現れ、これまで以上に里親希望者の手に渡る機会が少なくなります。この活動を通じて対価を得ているお母さんたちもいることから、転売行為は就業機会の減少にもつながります。
想いを持って生まれたおのくんだからこそ、もし、おのくんが必要ではなくなった時には廃棄するか、東松島や東北へ行ってくれる人に背景を説明して譲ることをおすすめします。